幸福な子ども時代をもつ人は一生誰にも奪えない力を手にしています。
幼かった頃の一つ一つの出来事は忘れてしまう日が来るかもしれないけれど、愛された記憶や満ち足りた時間の感触は胸に残ります。
そんな子ども時代は振り返るたびにわたしたちを静かな力で満たしてくれます。(注1)
どの子にも幸福な子ども時代を手に入れる権利があります。
そしてどの親にも、わが子に幸福な子ども時代を与える喜びを味わう権利があります。
親と子が満ち足りた思いで暮らせることを願い、精神科医として診療を続けてまいりました。
そして気付けば試行錯誤の20年間が過ぎていました。
何の具体的な支援サービスも提供できない状況で、親御さんをなぐさめ励ますことだけが仕事のように感じた袋小路の時期もありました。
療育指導のもとで子どもたちが驚くほどの技術を身に付けることを目の当たりにして、将来のための技術習得のみを最優先に日を送ることが幸せにつながると誤解した日もありました。
そして今、行動を調整する技術や自分に合った選択をする技術を教えるのと同時に、それら技術が必要な理由(誤った存在だからではなく少数派だから)を子どもたちに伝えていくことが重要だと強く感じています。
子どもが具体的自己支援技術を身に付け肯定的に自己をとらえるための心理学的医学教育は、高機能自閉症・アスペルガー症候群の子どもたちへの療育の根幹をなすものです。
子ども自身への診断説明に代表される心理学的医学教育は従来あまりにも軽視され、家庭にのみ委ねられてきました。
その一方で、近年の告知への関心の高まりは新たな誤解や危険を生じてもいます。
こうした状況のなかで、治療技法としての心理学的医学教育の検討を主目的として iPEC(アイペック、子どものための心理学的医学教育研究所:注2) は設立されました。
2005年2月
iPEC 所長 吉田 友子(よしだ ゆうこ)
注1:中央法規出版「高機能自閉症・アスペルガー症候群 その子らしさを生かす子育て」おわりに、より抜粋
注2:2016年7月 子どもとおとなの心理学的医学教育研究所に名称変更
臨床医となって30年の歳月が過ぎ、当時子どもだった人たちも、成り立て精神科医だった私も、ともに学びともに年齢を重ねてまいりました。
彼らの成長を追いかけて、幼稚園・保育園、小学校、中学・高校、大学、企業、就労や一人暮らしの支援機関と、相談すべき相手も広がっていきました。
開設時(2005年)iPECは「子どものための心理学的医学教育研究所 Institute of Psychomedical Education for Children 」の略称でした。
2016年7月、 iPEC は正式名称を「子どもとおとなの心理学的医学教育研究所 Institute of Psychomedical Education for Children and adults」に変更いたしました。略称はこれまでどおり iPEC です。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
「あなたがあなたであるためにー自分らしく生きるための自閉スペクトラム・ガイド」(中央法規出版、p111、吉田友子イラスト、2024)の挿絵として作成。
活用の際は、出典を明記してください。
補注部分はウィング先生に監修していただくことができないので、千代田クリニック通院中の方たちと佐々木康栄先生(よこはま発達グループ)からご意見をいただき完成させました。
その中で、「傘を忘れないために、畳んだらすぐカバンに入れる」というアドバイスが文章ではイメージできないとご指摘をいただき、この挿絵を作成しました。
傘を忘れないようにと気を張って暮らすよりも、傘のことは一旦忘れるけれど置き忘れない工夫がいいと思います。
「あなたがあなたであるためにー自分らしく生きるための自閉スペクトラム・ガイド」では
注意困難対策:原則2「忘れるけど、困らない」をめざそう を提案しています。